マネキンの全て

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マネキンのすべて 続編1996年〜2000年

はじめに

はじめに

既刊『マネキンのすべて』が発刊されたのは日本マネキンディスプレイ商工組合(JAMDA:ジャムダ)設立25周年にあたる1996年5月でした。はや15年の歳月が流れました。当初は会員企業向けに限定し配布されましたが、マネキンに特化した書籍は極めて数少ないこともあって、現在においても、組合ホームページ等で存在を知った人たちから入手希望が相次いでいます。紙面を見ると、マネキンの歴史、1950年以降のトレンド史、研究者やジャーナリストの考察、マネキン作家の思い、マネキンの制作現場や最新の展開事例等、日常的な存在でありながら通常知ることが出来ない、マネキンに纏わる知識や情報が網羅されていす。これらの要因からこの書籍は、他に類例を見ない永久保存版的資料として必要とされていることがうかがい知れます。

この『マネキンのすべて』を発刊した日本マネキンディスプレイ商工組合は、ディスプレイ関連団体の中で唯一「マネキン」を団体呼称に掲げています。つまりマネキンを製造販売している主要な企業のほとんどが加盟している団体なのです。構成メンバーにはマネキンを扱わない企業も数多く含まれていますが、議論の末、組合の社会的認知拡大を図るためには、「マネキン」にフォーカスを絞り、その特徴をクローズアップすることが重要との結論に達したのでした。そしてこの度、同様の趣旨に加えて、時代を繋ぐことの意味が話し合われた結果、『マネキンのすべて 続編』を発刊することになったのです。

既刊『マネキンのすべて』の編集委員として「マネキンの数奇なる歴史」をまとめたこと、その後もマネキン研究に取り組んできたこと、長くマネキンとともに歩んできたこともあって、本企画担当の竹本理事から、編集企画を引き受けてほしいとの要請があったのは2008年5月でした。当初は、全く新しい内容での企画案も検討しましたが、時代を繋ぐ続編≠ノ落ち着いたことは賢明な選択だったと考えます。しかし既刊発行から現在に至る15年間は、人間のみならずマネキンにとっても長い冬の時代であり、いつ脱出できるか判らない状況が現在も続いています。とりわけ研ぎ澄まされた感性と造形力、時代感覚を色濃く投影するリアルマネキンのようなハイタッチなものがデジタル全盛社会とどう関わり存在し続けることが出来るのか、一つの試金石と言えなくもありません。その意味で、この15年間のマネキンを取り巻く状況を多面的に捉えることによって、人とモノ、人と空間を繋ぐインターフェースの好ましいあり方が見えてくるものと考えます。

そのためには過去15年間、日本社会に起こった現象が、マネキンにどのような影響と変化をもたらせたか、そうした中でマネキンを生み出した人々は、いかに対応して来たかを明らかにすることが大切と考えます。

既刊『マネキンのすべて』が発刊された1996年当時は,地価の下落、有効求人倍率の低下、企業業績の悪化等、バブル崩壊の影響が顕著になった、所謂「失われた10年」の真っ只中にありました。その後部分的な景気回復は見られたものの、経済政策の失政、世界同時不況等に見舞われ、20年以上に及ぶ記録的な景気低迷と消費不況が続いてきました。このことは消費動向を左右する流通小売業に大きな変化をもたらせました。百貨店、量販店の売り上げが低迷する中で、コンビニエンスストア、フランチャイズチェーンの全国的浸透、SPA(製造小売業)の拡大、海外高級ブランドの日本進出とナショナルブランドの衰微、ネット通販の業績拡大、低価格で感度、品質重視のファストファッションブランド時代の到来等が特徴的な現象と言えます。

こうした状況は価格を軸に、その売り方や見せ方を変え、売場の風景に変化をもたらせました。それまでファッション販売空間に欠かせない存在であったマネキンに大きな変化が生じていることは言うまでもありません。バブル崩壊以前は、ショーウインドーのみならず、売場におけるビジュアルプレゼンテーションの華々しい演出要素であったリアルやアート指向の強いマネキンは激減し、ヘッドレスやボディ等の無機的なツールが主流を占めるようになっています。

本続編の主要なテーマは、こうした厳しい現状の中で、マネキンの可能性を見出すことにあります。具体的には、1. 主要都市のショーウインドーをつぶさに記録することによって、マネキンがおかれている現状をリアルに浮き彫りにすること。2. 同時代の欧米において、 ショーウインドーとマネキンが都市の文化形成に果たしている役割を明らかにすること。3. 集客力を高める、訴求力を高める、販売力を高めるためのビジュアルマーチャンダイジングとマネキンの今日的な意味を問い直すこ と。4. 厳しい市場環境にあって、マネキン企業とその作り手はどのような思いでどのようなマネキンを発表し続けてきたか。5. マネキンを作る造形、成型技術を活かし、可能性をどう広げてきたか。6. マネキンが商業空間以外でいかに活用され、その役割を広げてきたか。7. そもそもマネキンとは何か、マネキンに繋がる身体感覚をアート及び人形の視点で捉え、単なる商業活動の道具としての意味に留まらず、人間とマネキンの普遍的な関係を明らかにすること。8. 地球的テーマである環境問題とマネキンの関係を考察すること。

以上が「続編」の主な構成要素です。

責任編集長 藤井秀雪