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伊勢丹本店(東京・新宿)では、一階のメイン通路に面したステーシで、リアルメイクマネキンによるファッション提案を、長期にわたり行っている。
この仕事は、伊勢丹のプレゼンテーション担当を中心に、スタイリスト、ヘアーメイクアーチスト、そしてマネキンメーカー(七彩)のメイク担当が参加し、毎回その時々のファッションテーマやシーズンテーマをもとに行われている。
スタッフは10年以上にわたりこの仕事に参加しており、息の合ったチームワークによって段取りよく、リラックスしたムードで進行する。しかし実際には各スタッフとも常に厳しい目をもって細部をチェックし、妥協のない繊細な仕事をしているのである。
1995年現在、リアルマネキンは以前より需要が減っているが、このコラボレーションでは、リアルマネキンならではのハイレベルのディスプレイが、スタッフの技術とこだわり、そしてコミュニケーションによって保たれている。
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プレゼンテーション担当が用意したチャートやイメージコラージュ、素材、色などを見ながら、ヘアーメイクを決めていく。
雑誌まじりのリラックスした雰囲気の中、ヘアーメイクアーチストの手は休みなく動き続け、八カ所のステージに設置する16体分のイメージを描き上げていく。
スタイリストはマネキンをセレクトし、洋服、サングラス、帽子などの小物について検討し、提案する。
ステージのロケーション、マネキンの組合せ、洋服のイメージなど、出来上りを想定して意見を出し合い、全体のイメージを固め、そこからスタイリストは洋服や小物などのセレクトを、メイク担当はマネキンのメイクを行う作業へと進む。
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メイク担当は自社へ戻ると、打合せ内容に従ってカツラを発注し、マネキンの仕上げを行う。カツラはイメージスケッチを元に発注するが、イメージどおりに仕上げるには、その感覚をつかみ取る経験的な勘が重要だ。
マネキンの仕上げは、最初に地吹き(肌色を全体に吹きつける)作業を行い、メイクの下準備をする。エアーブラシで(数種類のノズルの先を使い分けながら)かなりの部分まで仕上げられるが、最終段階は細筆によって仕上げをする。
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リップ、眉、アイライン、瞳の部分などを描き、最後に睫を付ける。マネキンのメイクは、左右のバランスや目線の向き方などがもっとも難しい。この作業を見ていると、マネキンに魂が吹込まれるようである。
出来上ったマネキンは乾燥を待ち、現場へと運び込まれる。
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納品されたマネキンは一ヵ所に集められ、スタイリストがセレクトした洋服や小物などのフィッティング、コーディネーションを行う。プレゼンテーション担当がまとめた資料を確認しながら、シャツを着せつけ、小物を絡め、細かく手が入るたびに、マネキンは輝きを増してくる。
次にヘアーメイクアーチストによりカツラがセットされる。洋服とカツラの色のバランスやフォルムなどを一体ずつチェックし、ヘアースタイルを細かく手直ししていく。微妙な仕事である。
こうした作業がひと通り終わった状態で、スタッフとマネキンは閉店時刻を待つのである。
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閉店後の百貨店では、いろいろな作業が行われる。マネキンの入れ替え、ステージに飾られる生花のセッティング…etc。
マネキンはバックヤードから各々のステージの前まで運ばれ、最後のチェックを行い、スタイリストの指示でステージの上にセットしていく。メイクに最後の手が入り、何体か微妙なルージュの色を修正する。
「長い間この仕事に関わる中で、スタッフがお互いに共通のイメージを持ちながら仕事ができるようになった。現場の最終段階まで立ち合い、出来上りを確認すると、充足感が身体の中から湧き出てくる」(メイク担当)
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リアルマネキンによるハイクオリティなディスプレイ演出が、開店時刻を静かに待っている。
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