2006年08月19日
[ 今も昔も美のあこがれ【2005/10/4】 ]
国産洋装マネキン80歳
今も昔も美のあこがれ
欧米では日本人顔ブーム
マネキンは、ショーウインドーなどで最新のモードを身にまとい、常に人々の注目を集めてきた。今年は国産の洋装マネキンが登場して80年。古都・京都から始まったその歩みを見つめると、ファッションや人々の美意識の変遷が浮かび上がってくる。(前田利親)
マネキンはいつの時代も、女性たちの理想像を反映してきた。しかし、最近は、スーパーモデルのような体形だけでなく、団塊の世代を意識した、やや太めのものも登場している。
女性でウエストが68cm、男性で89cmと、通常のマネキンより10cm以上太い。首も短めで、親近感を持つ客も多いという。「吉忠マネキン」(京都市)研究・開発統括部長の川野泰さんは「高齢化社会の中で、新たな市場を見据えた」と言う。ただ、女性は身長1.69mで、顔も彫りが深く、”あこがれ”も演出されている。
欧米では今年、日本人の顔をしたマネキンが好評だ。アジアブームの影響とみられ、目とまゆの間が広く、ほお骨が高い。
マネキン制作は、原型作りからメークにまで今もすべてが手作業だ。メークは、ミラノやパリの最新コレクションの影響を受け、目の下に濃いシャドーを入れ、気だるい雰囲気を演出している。
※写真下の説明文 :欧米では、日本人をモデルにしたマネキン(左から二つ目)も人気だ(京都市右京区の吉忠マネキン梅津アトリエで)
記者から
作り方不変
モノ作りの雰囲気漂う
この80年、めまぐるしく流行が変化するなかで、様々なマネキンが作られてきた。素材こそ変わったものの、作り方はほとんど同じだという。大量生産にはおよそ向かないものなのだ。しかし、その特徴こそが、「常に時代の理想的な身体イメージを象徴している」「商業と芸術の間に位置する存在」といった関係者の自負を生むのだろう。
<モノ作り>の雰囲気を今なお漂わせるマネキンはこれから先、どんな姿を見せてくれるのだろう。店頭を巡る楽しみが、一つ増えたかもしれない。
日本最古の「成人女性」現存
背高くふっくら
戦前の製品 理想像投影
日本で作られた成人女性の洋装マネキンとしては最も古い戦前のものが、現存していることが分かった。背が高くふっくらとした体形に、当時の理想像が投影されている。
京都にあったマネキン制作会社「島津マネキン」(1925~43年)の37年ごろの製品。東京都内に住む創業者の親族が今年8月、マネキンメーカー「七彩」(京都市)に寄贈した。「七彩」にあった資料と照合し戦前の製品と分かった。
身長は1.6m。当時の女性(17歳)の平均1.51mより約10cm高く、脚の長さは81cm。一方、ウエスト65cm、ヒップ91.5cmで、「七彩」の現在の主要マネキン(ウエスト57.5cm、ヒップ82cm)と比べるとふっくら気味で、なで肩に作られている。
頭部は和紙製で取り外しできる。体の芯も和紙製とみられ、綿でくるみ、さらにメリヤスで覆っている。和装にも使うため、帯を締めやすいよう軟らかい素材でくるんだらしい。
流行を反映するマネキンは、古くなれば廃棄されることが多く、戦前の国産のものとしては、25年製の石こうの子どものものが現存しているだけだ。マネキンに詳しい京都造形大教授の藤井秀雪さんは「貴重な発見。当時のふくよかな日本人女性の美しさを表している」と評価する。
※写真下の説明文 :現存が確認された、戦前の成人女性のマネキン。ふっくらした腰回りが特徴的だ(京都市右京区の七彩で)
誕生から現在までの歴史
【戦前】
80年前、「島津マネキン」を設立したのが島津良蔵だ。ノーベル賞受賞者の田中耕一さんで知られる「島津製作所」(京都市)の2代目、源蔵の長男。東京美術学校(現・東京芸術大学)で彫刻を学び、芸術家らと共に国産の洋装マネキン作りを始めた。
当初は石こう製やろう製だったが、1928年、京人形などを参考に、和紙や日本画の顔料を用いて独自のファイバー製マネキンを開発した(写真1:1950年代の製品)。しかし、太平洋戦争が始まり、マネキンは「ぜいたく品」とされ、43年、島津マネキンは操業停止となった。
【戦後~高度成長期】
洋装が浸透した50年代になると、好みの型や布を選ぶイージーオーダーが定着。日本特有の「貸しマネキン」制度もこの時期にスタート。貸し手は回収して最新の髪形やメークを施し、流行をより早く反映させた。
50年代後半には、軽くて壊れにくい繊維強化プラスチック(FRP)製マネキンが作られるようになった(写真2)。ウエストは50cm前後。欧米女性をイメージしたものが多かった。
60年代後半、「ミニの女王」と言われたモデル、ツイギーを模したものが登場(写真3)。リアルなひざが特徴で、ウエストも5cm程太くなり、より現実に近い表現が始まった。
【1970年代以降】
サイズごとに大量生産が可能な既製服が定着、売り場でマネキンが占めるスペースは減少した。一方で、存在感のあるものが登場。生きた人間をかたどった「スーパーリアルマネキン」は家具などと組み合せ、ライフスタイル提案の演出に使われた。
80年代からはDCブランドなどの個性的な服に合わせ、針金や半透明プラスチックなど様々な素材を使ったオブジェ風のものも。最近は海外ブランド人気を反映し、身長約1.8mのスーパーモデル風も増えている。
写真(1,2,3)はいずれも「マネキンのすべて」(日本マネキンディスプレイ商工組合編)から
投稿日時:2006-08-19